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第60話 制御不能な恋心

مؤلف: 水守恵蓮
last update تاريخ النشر: 2025-06-26 18:51:52
本社ビルまで、大通りを並んで歩く。玲子さんがなぜ突然私を訪ねてきたか。その理由が察せたから、さっきから嫌な鼓動が治まらない。背後から優さんの険しい横顔を窺いながら、竦み上がりそうだった。謝らなきゃ、と思うのに、謝ってしまったら、『玲子さんに知られてしまった』事実を、彼との間で確認し合うことになる。そうしたら、優さんはどんな決断を下すか……。私は、『もう終わりにしよう』と言われることを恐れていた。優さんに心を求めないと言ったのは私なのに、今、崖っぷちに追い込まれても、まだ彼への恋心に縋っている。結局私は、優さんに声をかけることもできずに、足元ばかり見ていた。「……夏帆」一歩前を歩いていた優さんが、まっすぐ前を向いたままポツリと私を呼んだ。「ごめんな」少し硬い謝罪にドキッとしてから、私はおずおずと顔を上げる。「どうして、優さんが謝るんですか?」怖々と訊ねる私の前で、彼は両足を揃えて立ち止まった。「玲子が、迷惑かけたろ?」「なんで。そうじゃなくて、私がっ……!」謝らなきゃいけないのは私の方なのに。逆に謝られて思わず声を荒らげてしまい、私はハッとして言葉をのみ込んだ。こんな事態になっても落ち着
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    『結婚式、素敵だったね』――。ウェディングベルが鳴り響いた瞬間、白い雪が空から地上に舞い降りた。天の祝福みたいで、参列した人たちが一斉にわあっと歓声をあげた。素敵なホワイトウェディングを思い出し、そんな言葉を交わし合ったのが最後――。私と優さんは一つになり、それ以上はなにも考えられなくなった。そして、二人同時に、熱情の炎が爆ぜた。優さんは微かに息を弾ませ、私をぎゅうっと抱きしめてくれる。爆ぜた後も燻った熱がこもり、火照る肌。私は、彼の胸に頬を擦りつけながら、乱れた呼吸を必死に整えていた。「……夏帆」先に呼吸を鎮めた優さんが、私の乱れた髪に指を通した。さらさらと梳いて、指先で毛先を摘まんで弄ぶ。「は、い」私はまだドキドキと胸を高鳴らせたまま、喉に引っかかる声で返事をした。彼は一度口を噤んで黙り込んでから、私を抱きしめる腕にグッと力を込める。「あの、さ」「はい?」「いや。夏帆が昼間口走った、駆け落ち」「……?」なにかを迷うような口ぶりに、私は優さんの胸から顔を離し、そっと上を向いた。「そんなことさせない。正攻法で親父さん口説き落とすから。信じてて」優さんが、顎を引いて私を見下ろす。真剣な瞳にドキッとすると、彼はすぐにはにかんだ笑みを浮かべた。「夏帆に、覚悟が必要な恋に飛び込ませた手前。そこはきっちり責任とる。……というか、奈落の底とか煉獄など、君に見せやしないから」照れているのか、ちょっと早口で言って、私の額にキスを落とす。優さんの唇が触れた場所を探って無意識に手を当てる私に、彼はとても愛おしそうに目を細める。甘く優しいその表情に、私の胸がきゅんと疼く。「はい。あの……本当は、そんなもの見るわけないってわかってますよ」私も優さんにはにかんでみせた。「だってほんと。私、東京に来たその日に優さんと出会って、オフィスで再会して、あれからずっと……優さんを想って生じるどんな感情も、幸せなんです」そう言いながら、彼の肩口にトンと額を預ける。「え?」「優さんの言葉に仕草に、ドキドキするのも。好きで好きで焦がれて、胸が潰れそうなのも。壊れそうになって泣き叫んでも、強がって笑っても……自分でも、こんな感情が私の中にあったのかって驚くのに、溢れて迸るのも嬉しくて」「……はあああ」優さんは一瞬息をのんだ後、私の髪に顔を埋め、なんだか太い溜め息をついた。「え? 優さん……?」彼の吐息がくす

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    今日は、玲子さんと瀬名さんの結婚式。教会に着くと、私と優さんはまっすぐ新郎新婦の控室を訪ねた。少し緊張しながらドアを開け、「う、わああ~……」思わず感嘆の声を漏らした。「玲子さん、すごく綺麗!」一瞬にして視界いっぱいに飛び込んできた、ウェディングドレス姿の玲子さん。顔にかかった純白のヴェールを軽く持ち上げ、私たちを出迎えてくれる。「ほんと、綺麗。ドレス、すごくお似合いです……」もっといろんな言葉で絶賛したいのに、語彙力のない自分が残念すぎる。とにかく、すごくすごく綺麗で素敵で、感激のあまり声に詰まってしまった。「ふふ。夏帆ちゃん、ありがとう」玲子さんが、少し照れ臭そうに答えてくれる。そして彼女は、私の隣に立っている優さんに、つっと視線を流した。「優も。仕事忙しい時期でしょ。参列してくれて、ありがとう」優さんが、目を細めて苦笑する。「祝い事に、仕事なんかどうでもいいだろ。……瀬名は?」「さっき友達が来て、一緒に出て行ったけど。すぐに戻ってくるわよ」玲子さんが返事をする中、まさにドアの外から、足音が近付いてくるのが聞こえる。ほらね、と彼女がドアに目を遣った。それと同時にドアが開き、白いタキシードを身に着けた瀬名さんが姿を現した。「あ。優に夏帆ちゃん。来てくれてたんだ?」彼は軽い足取りで室内に入ってくる。「おめでとうございます、瀬名さん!」私が声を弾ませると、彼は口元に手を遣って、ブブッと吹き出した。「……なんだよ?」優さんが、訝し気に眉間に皺を寄せる。「いや」瀬名さんは、私と玲子さんを順繰りに見遣った。「なかなかすごいメンツが集まったよな。恋人シャッフルした俺たちが、一同に会せるとは。みんな鋼の心臓の持ち主」「……バカか」軽い上に面白そうな瀬名さんに、優さんが苦い顔で溜め息をつく。玲子さんも私も、顔を見合わせて苦笑した。「玲子、君、本当に瀬名でいいのか?」「これも、明彦なりの緊張隠しなのよ」ふふっと微笑む玲子さんに、優さんも何度か頷いて返す。「幸せになれよ、今度こそ」優さんの穏やかな祝辞に、玲子さんも嬉しそうに目を細める。少し離れたところで二人のやり取りを見ていた瀬名さんが、腕組みをして近寄ってきた。それを見て、優さんが彼に向き直る。「瀬名。玲子を、頼んだ」「お前は玲子の親父か……ってツッコミたいとこだけど、もちろん。お前も、夏帆ちゃん、幸せにしてやれよ」親指を突き立

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    春の訪れを思わせる暖かい日が何日か続いた後。今日は晴れの日だというのに、朝からあいにくの曇り空。季節が逆戻りしてしまったかのような肌寒さで、出かける支度をしながら、何度も窓の外の空を見上げてしまう。「……雪、降るのかな」今朝目が覚めてすぐ点けたテレビでは、東京に雪の天気予報が出ていた。なんとなく溜め息をついた時、寝室のドアが開いた。「夏帆。支度、できたか?」あまり見慣れない、すっきりとソフトなオールバックにセットした髪。フォーマルなブラックスーツに、白いネクタイ。袖のボタンを留めながら出てきた優さんに、私の胸がドキンと跳ねた。「も、もうちょっと……」お約束で見惚れてしまったのを誤魔化し、私は手元の鏡を覗き込む。メイクの仕上がりを確認してから、最後に急いで口紅を塗った。ふうっと息をついてから、肩口で揺れる髪をそっと手で払う。ネットやアプリを活用して、なんとか自分でヘアアレンジに挑戦してみたけど、今日の天気のおかげか、猫っ毛の髪はあまり綺麗に決まらなかった。「やっぱり、ヘアサロン予約すればよかったかな……」ちょっと残念な気分でボソッと呟くと、優さんが小さく浅い息を吐いた。「どっちにしても、無理だっただろ? 夏帆、今朝盛大に寝坊してくれたし」車のキーをポケットに忍ばせながら、結構ドライに口を挟む。「一時間前には会場入りできるはずだったのに。俺まで支度急ぐ羽目になった」なんだか偉そうにふんぞり返ってボヤくのを聞いて、私はムッと唇を尖らせた。「……それ、誰のせいだと」「なにか言った?」今度はネクタイを直しながら、彼がチラリと視線を流してくる。こちらに向けられるその目が、やや意地悪に細められ、私は慌ててブンブンと首を横に振った。「な、なんでもないです」肩を縮めて呟くと、「そ?」と軽い調子の声が返ってきた。はっきり言えるわけがない。昨夜、私は今日の予定を気にして、早めに寝ようと思ってたのに。寝坊したのは、優さんが寝かせてくれなかったからだ、なんて。それなのに、文句と同時に思い出してしまう、昨日の濃密で甘い夜――。思わずボッと頬を染めてしまった私に、優さんが「そろそろ行こう」と声をかけてきた。「う、は、はい」頬に手を当てながら、口をへの字に曲げて返事をすると、廊下を先に立って歩く優さんが、肩越しに私を見下ろした。そして、肩を揺らしてクックッと小気味よく笑う。「な~んか、言いたいこ

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  • ラブパッション   第89話

    まるで決意表明のような呟きを耳にして、私は弾かれたように顔を上げた。それには彼が「ん?」と首を傾げる。涼し気な優さんとは真逆に、激しく鼓動を昂らせた私は、顔を真っ赤にしてしまった。でも彼はきっと、私の心中を全部見透かした上で……。「『気をつけて帰って』……って言おうとしてたんだけど」そう言いながら、スラックスのポケットに手を突っ込み、そこから出したものを私の手に握らせた。目に触れないまま。でもその感触でそれがなにか、勘付いた。「っ、優さ……」「先に、帰ってて」優さんはそれだけ言って、私の横をスッと通り過ぎた。彼が残した微かな風を頬に感じながら、私はそっと手を開いた。そこにある彼のマンションの鍵を目にして、無意識に顔が綻ぶのを、抑えきれなかった。連日忙しく仕事に明け暮れ、ようやくお盆の一斉休暇を迎えた。初日に当たる今日、私は優さんと約束をしていた。午前十時。今日もすでに太陽は猛威を奮っている。朝からうだるような暑さの中で身支度して、マンションまで迎えに来てくれた優さんの車の助手席に乗り込んだ。「暑い中、ごめん」シートベルトを締める私に、彼はサングラスをかけながらそう言った。初めて見る何気ない仕草に、ドキッと胸が跳ねてしまう。エアコンが程よく効いている車内は快適なのに、頬が火照ってしまいそうだ。「いえ……」とっさにそう答えて、私は彼からソワソワと目線を外した。車が走り出すと、今度は窓の外の風景を気にして、フロントガラスと助手席の窓の間で目をきょろきょろさせてしまう。実は今日どこに行くか、私は彼から行先を教えてもらっていない。誘われたのは、数日前、オフィスの廊下ですれ違った時のこと。『君を連れて、行かなきゃいけない場所があるんだ』初めてのデート……!と浮かれることはできなかった。だって、優さんの表情からもお誘いの言葉からも、絶対に普通のデートじゃないとわかる緊張感が伝わってきたからだ。だから私も、助手席でしゃっちょこばって肩に力を入れていた。それを、気付かれてしまったのか。最初の赤信号で停止した時、優さんがふっと表情を和らげた。「夏帆。そんなに緊張しないで」気遣う声を耳にして、私はそっと顔を上げた。「ごめん。俺のせいだな。変な誘い方したから」彼は指先で軽くサングラスを持ち上げて、目尻を下げて苦笑した。またレアな仕草にはドキッとしながらも、私はほんのわずかにホッと息をつ

  • ラブパッション   第76話

    会場にいたのはほんの短い時間なのに、その間に、都会はすっかり闇を深めていた。ただでさえ履き慣れていないピンヒール。アスファルトを上手く走れなくて、私はコンベンションセンターから十数メートル駆け出したところで足を止めた。バクバクと跳ね上がる胸に手を当て、お腹の底から太い溜め息を吐いてから、俯き加減でトボトボと歩き出す。広い交差点で赤信号に捕まり、人混みの一番後ろに並んだ。私の周りを囲む人々の喧騒が、意識から遠のいていくような気がする。信号が青に変わり、人々の群れが一斉に動き出しても、私の時間は留まったまま。その場に立ち尽くし、足を踏み出すことができずにいた。その時。「夏帆ちゃん!!」後ろから、

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    「でも……あんな二人なら、憧れちゃいますね」二人に見惚れる私に、瀬名さんが怪訝そうに眉間の皺を深めた。内情を知っている私と瀬名さんにとって、二人の『夫婦』の姿はまやかしだ。でも、こうも完璧に装われると、なにが嘘でなにが真実か、私の常識は百八十度覆されてしまう。「私たちから見たら茶番でも。二人の心が通じ合ったら、きっと、誰もが羨むカップルになれます」そんな言葉に、私は決意を込める。そのニュアンスを察したのか、瀬名さんがハッと息をのんだ。「夏帆ちゃん? 君はなにを……」彼が声を潜めて探りかけてきた時。「明彦。……あら、椎葉さん?」わりとすぐ近くで、玲子さんの声が聞こえた。反射的にその方向に顔を向け

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  • ラブパッション   第66話 切ない片想い

    気になって、頭から離れないことを言った人。だけど、これまで二度会ったのはいつも偶然で、なんとかして会いたいと思っても、私は瀬名さんの連絡先を知らない。キョウちゃんか葉子なら、LINE交換くらいしてるかと思ったのに、意外にも『それは教えてくれなかったんだよねー』という返事だった。会って対していると軟派なくせに、意外と硬派な一面を覗かせる瀬名さんという人は、やっぱり私にはイマイチ掴みどころがない。万事休す……かと思ったけど、優さんも言っていた通り東京は狭い街で、三度目の偶然はわりとすぐに訪れてくれた。六月中旬。東京に、ほぼ平年並みの梅雨入りが宣言されたその日。昼を過ぎた頃から空は厚い雲に覆われ、

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